大阪高等裁判所 昭和37年(ネ)419号 判決 1964年8月31日
大阪市浪速区下寺町三丁目五〇番地
控訴人
堀内政雄
右訴訟代理人弁護士
中村源次郎
大阪市東区杉山町一番地
大阪国税局内
被控訴人
大阪国税局長
岩尾一
右指定代理人
樋口哲夫
同
吉田周一
右当事者間の所得税審査決定変更請求控訴事件について当裁判所はつぎのとおり判決する。
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
当事者双方の事実上の主張、証拠の援出授用認否は控訴代理人に於て
一、控訴人は昭和二九年当時馬力による運送業をも営んでおつたから、自家使用馬の馬糧を仕入れたが、その必要以上の馬糧を仕入れた事実はなく、従つて訴外木下運送株式会社に馬糧を売却した事実はない。
二、控訴人はその主張のガソリン仕入金額六六〇、八一二円(原判決一〇枚目表終りから六行目六六六、八三〇円とあるのを右の如く訂正する。)の外に乙第三号証一枚目第一一段目記載の如く訴外安里善六から金一二三、〇〇〇円相当のガソリンを仕入れた事実も又右数量のガソリンを入手した事実もない。右金一二三、〇〇〇円は控訴人の父が右安里にガソリン仕入資金として貸与したものであつて、この事は甲第一号証(安里善六の昭和三四年八月五日付証明書)によつて明かである。
従つて、控訴人の仕入れた昭和二九年度のガソリンの量は二〇、八八八立である。
三、減価償却には税法上定率法と定額法との両方法があつて、控訴人は本件に於て前者を主張しているものである。
定率法による為には、法文上書面による届出を要することとなつているようであるが、実務上は必ずしもそうではない。控訴人はいまだかつて書面による届出をしたことはないが、当時から現在まで毎年定率法によつて減価償却費を算出して納税している。殊に昭和二九年度分については控訴人は昭昭二九年三月頃所轄の浪速税務署の係員に口頭による届出をしてその承認を得た。
このように書面による届出がないのに定率法による減価償却が行われてきた実情であるにもかゝわらず、ひとり本件に於てのみ書面による届出がないという理由だけで定率法を排して定額法によるということは違法であるというべきである。
四、控訴人使用のトラツクが四屯積大型トラツクであり、小型オート三輪車が七五〇瓩積であることは認める。又控訴人記帳による傭車による支払額はトラツク分三一九、六三二円三輪車分二五、六二五円の合計三四五、二五八円であることは認める。」
と述べ、尚原判決摘示の請求原因事実中原判決二枚目表四行目「四月二五日」とあるのを「四月二四日」と、同三枚目表一行「二月以降」とあるのを「三月以降」と、同四枚目表七行目「雇入費」とあるのを「雇入費」と各訂正し、
被控訴人に於て
「原判決摘示の答弁事実中、原判決四枚目裏末行より五枚目表一行目にかけて(一)の(1)ないし(3)とある箇所を(一)の冒頭より同項(1)ないし(3)と、六枚目裏一行目より二行目にかけて六六六、八三〇円とあるのを六六〇、八一二円と、同裏三行目七八九、八三〇円とあるのを七八三、八一二円と、同六枚目終りから二行目三四八、二八二円とあるのを三五五、一四八円と、同行三、〇八〇、九八八円とあるのを三、〇七四、一二二円と、同七枚目表一行目二六、五五四円とあるのを二八、四七二円と、同二行目九一九、三二六円とあるのを九一七、四〇八円と、同七行目四八、三一四粁とあるのを四八、二〇六粁と、同八行目二七、九六八粁とあるのを二七、九一〇粁と、同終りから三行目一四、四九四立とあるのを一四、四六一立と、同行三、二一六立とあるのを三、二〇九立と、同終りから二行目八一パーセントとあるのを八二パーセントと、同末行一九パーセントとあるのを一八パーセントと、同七枚目裏二行目八一パーセントとあるのを八二パーセントと、同三行目二〇、一五九立とあるのを二〇、四〇八立と、同行一九パーセントとあるのを一八パーセントと、同四行目四、七二九立とあるのを四、四八〇立と、同六行目六七、一九六粁とあるのを六八、〇二六粁と、同行四一、一二一粁とあるのを三八、九五六粁と、同八行目四、二八五、〇八八円とあるのを四、三三八、〇一八円と、同九行目一、三五一、六四七円とあるのを一、二八〇、四八三円と、同八枚目表終りから四行目より三行目にかけて三一三、四五八円とあるのを三一九、六三三円と、同終りから三行目二三、九〇〇円とあるのを二五、六二五円と、同終りから三行目から二行目にかけて三三七、三五八円とあるのを三四五、二五八円と、同八枚目裏一行目三七四、八四一円とあるのを三八三、六二〇円(三四五、二五八円の九分の一〇)と、同二行目六・三〇〇、二四六円とあるのを六、二九〇、七九一円と、同四行目七、〇八五、四四六円とあるのを七、〇七五、九九一円と、同九枚目表、終りから四行目七、〇八五、四四六円とあるのを七、〇七五、九九一円と、同終りから三行目から二行目にかけて一、九六九、五〇八円とあるのを一、九六〇、〇五三円と、同末行二、一六九、五〇八円とあるのを二、一六〇、〇五三円と各訂正する。尚定率法によると建物減価償却費が控訴人の主張額となることは認める。」
と述べ、
立証として、控訴代理人に於て当審における証人安里善六、同木下八十一の各証言並びに控訴人本人の供述を援用し、乙第一五号証の成立を認め、被控訴代理人に於て乙第一五号証を提出した外は原判決事実摘示のとおり(もつとも原判決一〇枚目表二行に七八九、八三〇円とあるは、被控訴人の主張の訂正に応じ自ら七八三、八一二円と訂正される。)であるから、こゝにこれを引用する。
理由
一、当事者間に争のない事実及び控訴人備付帳簿の信頼性が薄いことについての当裁判所の判断は原判決理由中の当該部分と同一であるから、ここにこれを(原判決理由冒頭より原判決一三校目裏三行目までの部分)を引用する。(但し一〇校目裏終りから二行目昭和三〇年三月一五日とある次にその主張の如き記載のあると挿入し、一一枚目表六行目二五日とあるのを二四日、一一枚目裏四行目トラックとあるのを大型トラック(四屯積)、同行オート三輪車とあるのを小型オート三輪車(七五〇瓩積)、一二枚目表一行目消耗品等とあるのを消耗品費、同表終りから三行目雇入費とあるのを雇人費と各訂正する。)
二、控訴人の雑収入について。
原審証人金子正及び当審証人木下八十一の各証言により成立の認められる乙第一号証、右金子の証言、木下の証言の一部、当審における控訴人本人の供述の一部を綜合すると、控訴人は昭和二九年中に数回にわたり訴外木下運送株式会社に対し馬糧を代金合計二八八、六七〇円で売却したことが認められる。
控訴人は右馬糧の売主は控訴人の父であって控訴人ではないと主張し、当審証人木下八十一の証言の一部と当審における控訴人本人の供述には右主張事実に符合するものがあるが、右証言と供述はたやすく信用できないし他に右認定事実をくつがえして控訴人の右主張事実を認めるに足りる証拠はない。
三、控訴人の運賃収入について。
右認定につき、被控訴人が推計方法によらざるを得ないとしたこと及びその採用した推計方法が合理的で適法であるとすることについての当裁判所の判断は原判決理由と同一であるから、当該部分(原判決一三枚目裏終りから四行目より一四枚目表九行目までの部分)をここに引用する。以下原判示の順序に従って考察する。
1 控訴人のガソリン消費量
(1) 成立に争のない乙第三、四号証第一三、一五号証、原審並びに当審証人安里善六の証言の一部、原審証人金子正の証言を綜合すると、控訴人が昭和二九年中に仕入ないし入手したガソリンは合計二四、八八八立、その金額は七八三、八一二円であることが認められる。
(2) 控訴人は右認定にかかる数量中安里善六より、四、〇〇〇立代金一二三、〇〇〇円の一口分(乙第三号証の一枚目一一段目記載の分)の仕入をしたことも又右数量のガソリンを入手したこともない旨主張し、原審証人安里善六の証言により成立の認められる甲第一号証並びに当審における控訴人本人の供述に原審並びに当審証人安里善六の各証言の一部を綜合すると右主張事実にそうものがあるが、右各証拠は右事実の認定資料としてたやすく採用し難く、前顕乙第三号証第一三、一五号証、安里善六の証言の一部を綜合すると、右係争の四、〇〇〇立は安里善六の経営する合資会社丸三石油商会が控訴人より昭和二九年三月二三日頃借受けた一二三、〇〇〇円の代物弁済として同年三月から五月までの間に数回に控訴人に引渡したものであることが認められ、従つて右四、〇〇の立は売買による仕入とは言えないが、控訴人が同年中に入手したガソリンであることは争えないところである。右認定をくつがえして控訴人の右主張事実を認めるに足る証拠はない。
(3) そうすると、控訴人の昭和二九年の運賃収入算出上、右仕入もしくは入手したガソリンの数量を以て、同年中消費したガソリン消費量とみる外はなく、従つて右消費量は右二四、八八八立と推認できる。
2 トラックとオート三輪車の各ガソリン消費量
この点についての当裁判所の判断は原判決理由中の当該部分(原判決一四枚目裏五行より一六枚目表三行まで)と同一であるから、ここにこれを引用する。
但し、原判決一五枚目裏二行目三四八、二八六円とあるのを三五五、一四八円、同行三、〇八〇、九八四円とあるのを三、〇七四、一二二円、同三行目から四行目にかけて二六、五五五円とあるのを二八、四七二円、同四行目九一九、三二五円とあるのを九一七、四〇八円、同八行目四八、三一四粁とあるのを四八、二〇六粁、同八行目から九行目にかけて二七、九六八粁とあるのを二七、九一〇粁、同一五枚目裏終りから三行目一四、四九四立とあるのを一四、四六一立、同行三、二一六立とあるのを三、二〇九立、同終りから二行目八一%とあるのを八二%同行一九%とあるのを一八%、同一六枚目表二行目表二行目二〇、一五九立とあるのを二〇、四〇八立、同三行目四、七二九立とあるのを四、四八〇立と各訂正する。
3 運賃収入の算定
前記2に於て認定のトラックとオート三輪車との各ガソリン消費量を基礎として、前記運輸省作成の統計資料(乙第五号各証)によつて計算すると、走行粁数はトラックが六八、〇二六粁(二〇、四〇八立割る〇、三立)、オート三輪車が三八、九五六粁(四、四八〇立割る〇、一一五立)となり、これにより右統計資料にもとずき運賃収入を計算するとトラック運賃収入は四、三三八、〇一八円(六三円七七銭掛ける六八、〇二六)、オート三輪車の運賃収入は一、二八〇、四八三円(三二円八七銭掛ける三八、九五六))となる。
四、傭車による収入について。
昭和二九年における控訴人の傭車に対する支払額はトラック分三一九、六三三円、オート三輪車分二五、六二五円合計三四五、二五八円であることは控訴人の認めるところであつて、成立に争のない乙第一一号証、原審証人小橋秀一の証言によると、控訴人の如き業態の一般運送店における傭車による収入は平均一〇%の口銭があるのが通常であることが認められるので、控訴人の傭車による収入はトラック分三五五、一四八円(三一九、六三三円の九分の一〇)、オート三輪車分二八、四七二円(二五、六二五円の九分の一〇)合計三八三、六二〇円であると認めるのが相当である。
五、控訴人の事業の必要経費中争のある部分についての判断
1 仕入金
控訴人の昭和二九年の仕入金が少くとも金一、〇一七、七八〇円あることは当事者間に争なく、而して被控訴人は右の外尚ガソリン四、〇〇〇立の仕入代金一二三、〇〇〇円があると主張するが、右ガソリン四、〇〇〇立は売買により仕入れたものでなく、前記三の1の(ⅱ)に於て認定の如く貸金の代物弁済として受領したものである。併しながら、右四、〇〇〇立を昭和二九年の運賃収入をあげるについて消費したと認定したこと前記のとおりであるから、右ガソリン代金額相当の一二三、〇〇〇円を仕入代金とみて所得計算上これを必要経費として差引くべき仕入金の内に含めるのが相当である。
よつて、同年度の控訴人の仕入金合計は一、一四〇、七八〇円である。
2 減価償却費
この点についての当裁判所の判断は左記に附加する外は原判決理由と同一であるから、ここに当該部分を引用する。
控訴人は昭和二九年以前より現在まで毎年書面による届出をせず定率法により減価償却費を算出して納税してきており、昭和二九年度についても同年三月頃所轄浪速税務署の係員に口頭による届出をして定率法により減価償却をなすことの承認を得て定率法による減価償却費を計上したのであるが、本件紛争がおこるや、ひとり本件昭和二九年度分についてのみ書面による届出がないという理由だけで定率法によることを認めないのは違法であると主張し、当審における控訴人本人は右主張事実にそう供述をしているが、右供述はこれをたやすく信用し難く、仮に右主張の如き事実があつたとしても、それは違法な取扱である。それ故に昭和二九年度の本件課税処分について定額法によるべきものとした被控訴人の処分は正当であつて、控訴人の主張は採用し難い。
六、以上、事業収入金(配当収入を除く)は、前記当事者間に争のない馬力運送並びに肩引運送による収入金七八五、二〇〇円に前記認定の収入金合計六、二九〇、七九一円(トラック並びにオート三輪車による運賃収入金合計五、六一八、五〇一円、傭車による収入三八三、六二〇円、雑収入二八八、六七〇円)を加えた合計七、〇七五、九九一円であり、必要経費は前記争のない経費合計三、四六六、〇九二円(原判決摘示の控訴人の請求原因二の(二)の(1)ないし(10)の合計)に右認定の経費一、六四九、八四六円(仕入金一、一四〇、七八〇円と減価償却費五〇九、〇六六円)を加えた合計五、一一五、九三八円となり、事業収入金額七、〇七五、九九一円から必要経費五、一一五、九三八円を控訴した金一、九六〇、〇五三円が控訴人の昭和二九年度の事業所得である。
これに当事者間に争のない配当所得金二〇〇、〇〇〇円を加えた金二、一六〇、〇五三円が控訴人の同年度の総所得金額で、被控訴人は控訴人の同年度の所得をこれより低い金一、二四六、五〇〇円と認定し、控訴人主張の額の生命保険料、扶養控除額、基礎控除額、配当控除額、源泉徴収税を控除し、本件審査決定額を算出したのであつて、被控訴人の本件処分には違法はない。
これと同旨の原判決は相当で本件控訴は理由がないから民事訴訟法第三八四条に則りこれを棄却すべく、控訴費用の負担につき同法第九五条第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 宅間達彦 裁判官 増田幸次郎 裁判官 井上三郎)